概ね分析のプロジェクトの流れは
- 提案フェーズ
- キックオフフェーズ
- 分析フェーズ
- 成果物作成フェーズ
がある事を前回述べました。今回から順に提案フェーズから掘り下げて解説しています。
前回の記事
提案フェーズの概要
提案フェーズは最もプロジェクトで重要です。が世の多くのデータサイエンティストはあまり関心がないテーマでもあります。ここで顧客との合意形成が得られなければ後フェーズにおいて炎上の原因となります。しっかり抑えておきましょう。まず提案フェーズはおもに4つのサブ工程から構成されます。以下にそれを記します。
1.プリセールスヒアリング
- 何をいつまでに誰が、どのように行いたいのか?という顧客要望をヒアリングします。
- インプットとしてはあればRFPを使います。
- アウトプットは顧客目標と現状のギャップやプロジェクト遂行のボトルネックです。
2.期待値のコントロール
- 顧客要望とボトルネックからできること、できないことの切り分けを行います。
- またできる範囲で最大限顧客目標を達成するための分析方向性を提案します。
- アウトプットはギャップとボトルネックを解消した簡易的なロードマップです
3.成果物の設定
- 成果物を設定します。成果物には分析報告書、モデル定義書スコアリングデータリストなどが相当します。
- アウトプットは想定成果物一覧、想定成果物イメージです。
4.提案書作成支援
- 上記の内容を踏まえて「スケジュール」「体制」「価格」「成果物」を盛り込んだ内容にします。
- アウトプットは提案書の一部(全体は営業担当者作成)です。
【図表 提案フェーズの流れ】

(筆者作成)
では一つ一つの工程を詳細に見ていきます。
プリセールスヒアリング
顧客ヒアリングにより、顧客の視点での目標等を整理します。ヒアリング項目は概ね顧客の目標に関わる内容と制約(データ/納期/予算/)に関わる内容が適切です。また顧客によってはRFPがある場合はそれも活用します。
以下に概略を示します
【図表 ヒアリング項目と想定アウトプット】

(筆者作成)
上の図は聞くべき項目とその具体例です。必ずしもこれで過不足ないとは言えませんが、概ね最初に聞くべきことの参考として下さい。
次に制約事項を考慮し顧客の要望とできることのギャップを分析します(この時点でギャップがないということは滅多にない)以下の図を見て下さい。まずはhowの部分にフォーカスします。
【図表 制約関連図】

(筆者作成)
図では2つの部分で理想とのギャップ(青色箱図)があります。ギャップは色々な種類のものがありますが、この例では①は工数に関するもの②はデータに関するものに分類できます。まずは②データに関するものから見ていきます。
データ由来のギャップ解消
実はデータ制約は緩和できる可能性があります。顧客がヒアリング時に回答したデータは顧客が保有している全データでなく、実はとりそこねていたものがあったりするのです。したがってデータ制約のギャップ解消でまずやるべきことは受託側から必要なデータの有無を再度確認することです。
【図表 顧客の認識外のデータ】

(筆者作成)
納期/予算 由来のギャップ解消
基本的に工数の削減が必要です。目標達成のために過剰といえる分析数を減らします。但しで過剰であることの根拠を説明する必要があります。削減方法の一般論を論じることは残念ながら困難ですが、2章分析方向性立案で学ぶ内容でいくばくか対応可能です。
【図表 工程図】

期待値のコントロール
顧客は最初の提案段階で、かなりやりたい事を詰め込んできます。一方で物事には制約があります。このフェーズでは制約内でできることできないことを仕分け、顧客の期待値をコントロールすることによりプロジェクトの炎上リスクを減らします。
前項のギャップ解消の代替案を適用します。顧客の期待値は高すぎず、低すぎずにコントロールすることができます。
(筆者作成)
次に簡易ロードマップ作製、期待値をFIXさせます。この際詳細なガントチャートは不要、メモレベルでいつから各々の工程がどれぐらいで終わるかのみで十分です。重要なのは顧客/受託側が現実的な進め方をすり合わせることです。
(筆者作成)
次にhowの中で代替案がないときを考えます。上の階層であるwhatの代替案を考えます。このときすべてのwhatで代替案がない場合顧客目標が達成不可能となり、期待値は0になる。しかし達成できないものを受注するリスクを排除しています。残念ながら受注しかねる案件という事になります。
【図表 0になった期待値】

成果物の設定
成果物の取り決めを行います。目的としては受託側としては追加での納品等がないようにゴールを定める意味合いの方が強いです。先に明示していない場合、データ加工あとのデータや加工スクリプト、モデル定義書と追加で対応せざるを得なくなることがります。以下にデータ分析PJにおいて要求される成果物を記しました。
【図表 成果物一覧】

(筆者作成 少々広告系の仕事によった形になってしまいました)
ただし業務委託契約においても準委任契約であれば検収が不要であるはず(要法務確認)。したがってシステムと異なりでき上りが想定できないデータ分析プロジェクトでは準委任契約の方がリスクが少ないです。
一方すべての成果物を作成すると負荷が大きいため、ここではおおよそプロジェクトの特性ごとに必要とされる成果物をPJ内容ごとに示します。
これをもとになるべく負荷か低い成果物での合意形成を目指します

提案書作成支援
原則提案書は営業担当者が主な作成手として我々はそれを支援する立場となります。(自分でできるならば自分でやっても問題ないです)
*(提案書の書き方の詳細にはこの本では触れない。あまりに膨大な量となり、本書のスコープからはずれる。興味がある方は「受注を勝ち取るための 外資系「提案」の技術—日本人の知らない世界標準メソッド 単行本(ソフトカバー) – 2015/3/20 式町 久美子 (著)を参照)
提案内容でも特に分析担当者が資するものとして、スケジュールと体制図があります。
スケジュール
ここでは非常に簡易的なスケジュールを以下に示すますが、詳細なものを要求される場合ももちろんあります。今回はガントチャートの作り方には立ち入らないため、分析担当者として提案書作成者に伝えるべきエッセンスのみに絞っりました。
スケジュール
- 打ち合わせタイミング
- バッファーの確保
上記3つは必ず織り込むようにしましょう。
体制図
営業担当者がいれば一緒に作成します。主に我々は受託側営業以下を作成します。プロジェクト規模にもよりますが、PM(シニア)、メンバー(アソシエイト)×1-2名程度。想定する稼働率により異なるが詳細は見積もり論になるので深くは立ち入らないです。
【図表 体制図】

終わりに 提案フェーズでの我々の役割
Ø提案フェーズにおいてのリスク回避
データ分析PJにおいてリスクとはどのようなものがあるだろうか?例えば分かりやすい例でいえば、少量データでの複雑なモデル作成であったり、データ同志が紐づかない、大量のモデル作成による工数負荷、顧客と成果物認識の相違等のものがあります。これらはすべてPJのQCDを脅かすリスクであるが一方で、提案段階で把握し取り除くことができる物が多いのです。
例えば、顧客の初期の要望に「複数のモデルを作成して比較したい」というものがあったとき、ほとんどの場合で顧客目標達成よりも過剰な要望、すなわちもっと少ないモデルで十分である事が多い。そのため少数モデル作成を提案し、工数負荷に関するリスクを取り除くことができるのです。
Ø顧客の言いなりにならない
顧客要望が目標に対して過剰になりがちな理由は、データ分析に対しての理解不足が挙げられます。そのため目標達成のため保守的(過剰)な要望をしてしまうのです。我々の仕事は顧客の言いなりにならずに目標のための必要十分条件を示すことです。
Ø目標への必要十分条件の見つけ方
経験によるところが大きいですが、サーキットの1周目である若手は慎重になりすぎるくらいで丁度よいと思います。PMやシニアの後をついて複数周回して経験を積むのが良いです。逆に言えば経験さえ積めば誰でもできるようになります。
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