誰かが産業の発展に有益な発明をしたとしましょう。それはとても有益なため周りが模倣を始めます。そのとき発明者が模倣を恐れてそれを秘匿したらどうなるでしょうか?本来その発明の実施により得られるはずだった産業の発展が阻害され社会全体の利益を減少させます。そのため発明を奨励し産業に寄与するため発明者が秘匿せずとも権利を保護できるように特許権は定められました。

ところで発明に該当するものとは何でしょうか?「特許法第2条に規定される発明、すなわち、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを保護の対象とします」(*引用)とあります。少し抽象的ですね。特許取得ランキング(下図参照)を見ると上位の多くが製造業、特に精密機械や自動車であることから例えばプリンタの給紙や自動車のトランスミッションの技術などが具体的な例だと考えられます。

ではデータサイエンティストの成果物は発明でしょうか?字数もあまりないので結論だけ申し上げると発明になりうるものもあるというのが私の見解です。一方でデータサイエンティスト自身は夢にも特許権を取得できると思っていないので特許出願を行わないことが多いのが現状です。本スライドでは実際に発明を特許化した筆者が、データサイエンティストが特許取得を行うまでの方法やその目的やメリットを解説していきたいと思います。

* 特許庁HP https://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/chizai04.htm

(出展)知財ポータルサイト IP Force https://ipforce.jp/Data/index/tabid/2/apstk/1/tabid2/2

特許を取得するメリット/デメリット

特許を取得するメリット/デメリット 特許を取得するのはもちろんメリットがあるからです。一方でデメリットもあります。

企業 発明者個人
メリット
  • 独占排他的に実施できる
  • 無形固定資産として属人的な技術を会社のものにできる(論文はなりません*1)
  • 他社へのライセンシングでの利益が見込める
  • 自社製品のアピール
  • 発明者として特許明細に名前が残る
  • 履歴書やlinkedinなどへ記載ができる
  • インセンティブ報酬を受け取れる

(主に名誉です)

デメリット
  • 発明内容が公開される(*2)
  • 維持費にお金がかかる
  • 取得のために弁理士の先生との打ち合わせがある

起業としては発明の実施を他社が見た時に簡単に模倣できるものは特許を取得したほうが良く、一方で発明を見ても到底マネできないものは特許は不要とすることが多いです。データサイエンティストの発明は前者であると考えます。

(*1) アカデミックでの業績は論文ですが、ビジネスの研究開発は特許が重視されます

(*2) 特許は出願すると1年半後に公開されます

(参照)弁理士先生のサイト めちゃくちゃわかりやすい https://www.ryupat.com/patentmerit/

(補足) 職務発明

企業内での職務上の発明を職務発明と言います。職務発明の詳細は参考を見ていただくとします。

原則特許を受ける権利は発明者にありますが、就業規則で「それは譲渡してもらうよ」と書かれていれば会社が特許を受ける権利を有し出願できます。H27年の特許法改正でもっと会社有利になり就業規則に定めあれば発明と同時にその権利が会社に帰属するということになりました。個人的な体感としてこの定めをしている企業がほとんどだと思いますので職務発明の権利はほぼ会社の権利となると思っていた方が良いかと思います。そのかわり発明者に「相当の利益」を支払うことが義務付けられています。相当の利益は発明報奨金だとかそんな名前です、額は言えないですが期待しないほうが良いです。

個人的には職務時間で会社の資産を使って発明したので、H27年以降の会社有利になったのはしょうがないかなと思います。

(参考)弁理士先生のサイト めちゃくちゃわかりやすい  http://www.watanuki.co.jp/invention/

特許取得までの流れ

全体図

以下が特許出願の流れですがはっきりいって意味不明です(笑)心配しないでくださいそのために弁理士の先生がいるのです。発明者がやることは発明してそれを弁理士の先生が何となく理解するように説明するだけです。

特許出願の実務 「特許 庁 (一社)発明推進協会アジア太平洋工業所有権センター」2013より

発明者がやること

データサイエンティストがやることは主に左2つのフェーズです。まず発明を相談すべきなのは会社の法務です。会社の戦略として出願すべきかの判断を仰ぐ必要があります。また法務部が弁理士事務所間を取り持ってくれると非常に楽です

出願後

審査請求

普通出願すれば審査をしてもらえるのが当然と考えるのですが、何と特許は審査請求としないと審査されません。3年以内に審査請求しなければ出願は取り下げられたものとみなされます。特許は先願性なのではやく出願したものに受ける権利があります。ですから権利化するかはとりあえず出願してから考えて、あとで権利化不要となったら審査請求しないで取り下げるというような使い方ができます。これは発明者が審査請求するしないの判断ができない場合はどうしようもないので会社が審査請求するのを願うしかないです。

拒絶理由通知

無事審査されるとそれについて回答が来ます。ほかの人はどうかしらないですが私の場合まず一発で通りません。拒絶理由は大抵ほかの特許の権利とかぶっているとか新規性がないとかそんな理由です。ここで弁理士の先生と作戦を練りより範囲を絞って補正書を提出します。

特許査定 登録

見事審査に通ると特許査定というものが来ます。あとは会社の法務の人が登録等やってくれると思います。お疲れ様でした。

どのようなものが発明と認められるか

一概にこういうものが発明といい難いので、データサイエンティスト関連特許と思われるものを検索し事例を提示します。株式会社ギックスのホームページに彼らが取得した特許の簡単な内容が以下のように記載されています。

「同社が得意としている大量のID-POSデータを効率的に処理したり分析したりするための手順などを定めたものである。」

またこれに該当するであろう特許の要約は以下です

「 【課題】商品又はサービスの利用デーを用いたマーケティングにおいて、有用なマーケティングデータを提供する。【解決手段】商品若しくはサービスの利用開始若しくは利用停止を行う顧客のアクション、又は商品若しくはサービスの利用に関する顧客の状態変化を特定して設定する。その後、判定期間T2におけるアクション又は状態変化の有無により、顧客をセグメントに分類する。その後、アクション又は状態変化が有ると分類されたセグメントに対し、集計期間T3の利用データを集計して見込み値を算出する。なお、判定期間T2の始点は、集計期間T3の始点より前又は集計期間T3の始点と同じである。」

(特許6143930)

上記の要約から読み取れるのはデータを用いて作成した数理モデルそのものではなく、処理の一連の流れに新規性があるようなものを発明とみなせるような気がします。実際筆者の取得した特許もパラメータの推定方法というアルゴリズムではなく推定する対象と用いるデータの対象に新規性があったと記憶しています。

結論:発明かどうかを判断するのは素人では難しいためできるなら弁理士の先生に相談したほうが良いと思います。

(参考)株式会社ギックス HPhttps://www.gixo.jp/news-press/7881/

(参考)日経ビッグデータ 2016年2月号P18

最後に

小難しいことを言ってきましたが、要するに特許出願の流れはいうほど難しくもめんどくさくもないです。

TeroVesalainen / Pixabay

周りのデータサイエンティストを見ると結構それって発明になるよねということが多いです。企業という立場でみると必ずしも特許を取得することがメリットにはならないのですが、個人としてはメリットしかないのでこれをご覧の皆様もぜひ一度ご検討いただければと思います。