広告効果定量化のためのMarketing Mix Modeling (MMM) 入門と実践(1)

はじめに

「広告費の半分が金の無駄使いに終わっている事はわかっている。わからないのはどっちの半分が無駄なのかだ。」*1 (19世紀末の実業家ジョンワナメーカー) あまりにも有名な言葉が投げかける問いは「広告効果の定量化は可能か?」という風に解釈できます。 彼が生きた時代から100年余りが過ぎました。この間「広告効果の定量化」に関して多数のアプローチが考案されてきました。本稿ではこの一つとして考えられたMarketing Mix Modeling(マーケティングミックスモデリング)について解説をしていきます。 Marketing Mix Modelingの定義は人によって様々な定義がありあます。
  • 「投下広告量がどれほどセールスやマーケットシェアに影響を与えたかを定量化する技術」 (Towards Data Science内の記事「Market Mix Modeling (MMM) — 101」*2)
  • 「マーケティングへのインプットの潜在的価値を測る事及びそれを用いて長期スパンでの企業の利益を生み出すためのマーケティングの投資量を決める事」(アメリカの調査会社「Decision Analyst社」のHP *3)
とあります。要するに投下広告料(インプット)単位あたりのビジネスアウトプットを定量化する事、またはその技術の総称と考えることができます。数学的に定式化すると、売上=F(X) (X=(x1,,,xn) xiは各チャネルごとの広告投下量)となるXで全微分可能な関数Fを特定するとできます。   *1 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%8A%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%83%BC *2https://towardsdatascience.com/market-mix-modeling-mmm-101-3d094df976f9 *3https://www.decisionanalyst.com/analytics/marketingmixmodeling/ 本稿ではまずMMMの問題意識と発展の歴史、そして未だ残る課題や困難を整理します。そして今後のMMMの一つの手法としてMCMCを用いた方法を提案します。

MMMの問題意識

ジョンワナメーカーの言にあるようにマーケターが直面する問題は広告費の効果はどれくらいか?そしてそれが適切か分からないという事にありました。そしてこれに対して一つの解を与える手法がMMMということになります。

MMMの歴史と変遷

いつからMMMがこの課題に対して取り組まれたかは諸説あるようですが、ここ20-30年前にはすでに実施されていたようです。いくつか冬の時代を迎えたようですが、デジタル広告の普及により広告予算と効果を一部データとして蓄積するようになって以降(2000年以降?とも)再度議論されるようになったのです。そしていくつかのの実施例も見られるようになりました。

事例 P&G傘下クロロックス社

当時P&G傘下であった漂白剤メーカー「クロロックス」はMMMの活用で広告予算の見直しとプロモーション予算へのアロケーションにより6,500万ドルのマーケティング予算を削減したとあります。*4 (AdAge 「P&G, CLOROX REDISCOVER MODELING」 By Jack Neff. Published on 2004.05.29) ところでMMMは売上関数F(X)を一つ特定するのでした。 (X=(x1,,,xn) は各チャネルごとの投下広告量)従って(F(X)-ΣXi)÷ΣXiと計算できこれはROIと見なせます。ROIは費用対効果の指標です。具体的な定義は文献により異なりますが、ROI:=営業利益-投下費用/投下費用のように利益変数とコスト変数の割り算で表現されます。特に投下費用が広告費のようなマーケティング費用である場合、ROMI(Retrun on Marketing Investment)と呼びます。MMMの実施によりROMIの計算が可能になり、何も持たない時代から当面の指標を算出することが可能になったのです。 ROMIの算出はかって販管費であった広告費を固定資産への資本投下と同様にファイナンスの舞台に引きずりだしたとも見る事ができます。従って今後広告投下のために融資を受けるようなスキームが誕生するかもしれません。余談ですがアメリカではCMOの成果指標の主流はROMIのようです この様に100年以上も前からあった問題意識はMMMによって一応の解決手段を得たと考えられます。 *4 https://adage.com/article/news/p-g-clorox-rediscover-modeling/98092

MMMとアトリビューション分析の違いについて

MMMと似たような文脈で使われる概念でアトリビューションと呼ばれるものがあります。広告の貢献度を求めるという意味では同じですが、以下の点で異なります。
アトリビューション MMM
分析対象 数キャンペーン間の広告評価主にオンライン 4マス/デジタル等のチャネル間の広告評価主にオフライン/オンライン
目的 キャンペーン設計のための参考 広告予算全体の最適化
期間 短期間 長期間
手法 ボトムアップアプローチミクロ的手法 トップダウンアプローチマクロ的手法 経済モデル的手法
データ ユーザ一人ひとりのトラッキングログ ある日時の広告投下量とある日時のCVデータ(トラッキング不要)
アトリビューションの方が短期キャンペーン向けと言えます。またMMMと比較してボリュームの意味でたくさんのデータが必要です。(MMMはテレビ視聴率や発行部数のようにデータのバラエティが重要になります)

現代におけるMMMの課題

MMMはROIの算出を可能にし、広告予算の最適化に資するまでになったとお述べました。しかし現在においてMMMの良いモデルをどのように作成するかという問いは未だ解決の糸口は見つかりません。以下のような内容がこれを困難にしています。
  • 費用対効果の力学が個別の商品やブランドごとに異なる。同じモデル式を異なる商品やブランドに適用できない。
  • 上記のため仮説をいくつか用意する必要があり、それは多分に属人的である。
  • モデル作成のためのヒストリカルデータの問題。データの保管形式が統合されていなかったり、整理されていたなったりする。またそもそもデータがない。
このように概念としてMMMは確立されましたが、それを如何に行い精度良くROIを算出できるかという点において課題が残っています。 (続く) MMMについてのご相談は株式会社Crosstab https://crosstab.co.jp にお願い致します。

Author Profile

株式会社Crosstab 代表取締役 漆畑充
株式会社Crosstab 代表取締役 漆畑充
2007年より金融機関向けデータ分析業務に従事。与信及びカードローンのマーケテイングに関する数理モデルを作成。その後大手ネット広告会社にてアドテクノロジーに関するデータ解析を行う。またクライアントに対してデータ分析支援及び提言/コンサルティング業務を行う。統計モデルの作成及び特にビジネスアウトプットを重視した分析が得意領域である。統計検定1級。
技術・研究のこと:qiita
その他の個人的興味:note


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2007年より金融機関向けデータ分析業務に従事。与信及びカードローンのマーケテイングに関する数理モデルを作成。その後大手ネット広告会社にてアドテクノロジーに関するデータ解析を行う。またクライアントに対してデータ分析支援及び提言/コンサルティング業務を行う。統計モデルの作成及び特にビジネスアウトプットを重視した分析が得意領域である。統計検定1級。 技術・研究のこと:qiita その他の個人的興味:note お問い合わせは株式会社Crosstabまでお願いいたします
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