一般的に広告やキャンペーンの成果指標として売上や来客数などを用いることが多いと思います。特にインターネット広告ではCV率やCV数の増加が成果指標としてモニタリングされることが多いです。

一方でこれらの指標は短期的な成果しか評価していないとも考えられます。例えばポイントサイトのポイント還元を報酬とした(入会者には5000ptプレゼントのような)クレジットカードのキャンペーンではポイント目的のユーザの入会が増加しますが、これらは果たして長期間利用してくれる会員になってくれるかというかというと疑問です。恐らくポイントをもらったあとは休眠会員となってしまうでしょう。従って売上や来客数のような指標はキャンペーンの短期的な評価には有効であるかもしれないが、長期的な評価に対しては不十分であることが分かります。

このような課題に対してLifeTime Value (LTV) が一つの長期的指標として考えられてきました。これは短期的な売上ではなく、あるユーザ(もしくはユーザのクラスタ)が生涯を通じて当該ブランド、あるいは製品。サービスに支払う価値を定量化したものです。本稿ではLTVの具体的な計算方法、その活用案について紹介していきます。

LTV概要

LTV定義

顧客が生涯を通じてある製品やサービスに支払う金額の大きさです。最近ではCustomer Lifetime Value(CLV)と呼ばれることもあります。元々はファイナンスの文脈で使われる言葉でしたが、最近はCRMにおける重要な指標として使われています。直観的に言えば図の水色で塗りつぶした面積の大きさがLTVです。

LTVには様々な定義があります。単純に顧客が支払う売上そのものを算出の対象とする場合や、粗利益で考える場合もあります。上の例と同じように以下に図示しました。

また、単一ブランドで考える場合や、ブランド横断で考える場合もあります。

LTVの例

スマートフォンの売上

2年で更新するものとし、月の売上を10,000円、更新率を75%、10年で更新終了とします。(つまり4回更新する)
このキャッシュフローを図示すると

となります。具体的に計算すると
LTV = 10000*12*2+0.75*10000*12*2+…+0.75^(4)*10000*12*2 = 24000 + 18000 + 13500 + 10125 + 7593.75 = 73218.75円
となります。

トイレットペーパーの売上(ブランド横断)

1家庭2日で1ロール消費、6ロール入り600円、30年間消費するとします。同様に具体的に計算すると
一日あたりの金額 = 600/(2*6) = 50
LTV = 50*365*30 = 547,500円
となります。

LTVを活かす

LTVはCRMだけではなくマーケティング全般に対して有効な指標です。その活用方向性を以下のようにまとめました。

LTVが高くSoWの低い層アプローチブランド横断LTVが高い層(例えばトイレットペーパーの場合世帯人数が多い世帯)の中で当該プロダクトのSoW(シェアオブウォレット)の低い層に対して自社へのブランドスイッチを促す広告戦略や店頭でのフェイス獲得を目指す。
この施策が有効な製品はも最寄品や日用品に多い。何故ならばブランド全体で見れば、LTVは一定であるためシェア率を高める事=自社ブランドLTV上昇となるから。
購買回数の多いサービスの顧客LTV分析一般的に顧客の購買回数が多いサービスは継続率や、単価上昇のクロスセル・アップセルによりLTV向上施策を打ちやすい。例えばECがこれに適した業種で、amazonはレコメンドによる単価向上、prime会員制による継続率の向上施策を行っている。
これら施策の長期的なKPIとしてLTVを活用する。
広告出稿時に高LTV層へのターゲティング推定LTVを算出し、LTVの高低により広告の投下コストを最適化する。
具体的にはLTVの高い既存顧客の類似ユーザにに対しては、他のユーザより高い獲得コストを許容し、LTVの低い既存顧客の類似ユーザに深追いをしないのような運用を行う。

LTVが高くSoWの低い層アプローチ

SoWはある製品・サービスカテゴリに占める、あるブランドの割合です。例えばネットで本を毎月1万円買う人がそのうち8000円分をAmazonで購入していた場合そのSoW-80%です。この活用方法はLTVが高く自社ブランドへのSoWの低い層へブランドスイッチを促すことでSoWの上昇を目指します。

一般的にスイッチが簡単な低関与商品(ブランドへのこだわりのない製品・サービス)、例えばトイレットペーパーや洗剤、ごみ袋などに有効であるためTV広告による認知上昇や店舗内の棚割の工夫で目につきやすいようにすることが有効です。

購買回数の多いサービスの顧客LTV分析

EC・小売りは顧客との接点が多いため、直接提案を行いLTVを改善することが可能です。LTVは以下のような分解ができるため、この3つのを改善する施策を実施します。

広告出稿時に高LTV層へのターゲティング

LTVが高くなると予想されるユーザとそうでないユーザと獲得コストの最適化を行います。

広告投下費用の最適化前後比較します。

 

LTVの計算

LTVの一般論

始めに説明したようにLTVは時間t時点での売上関数S(t)の水平軸との間の面積の大きさとして定義できます。
従って、一般的にLTVはLTV≔∫S(t)dt ([0,∞]で積分)と記述できます。またS(t)はユーザの特性(例えばデモグラなど)に依存して決まると考えられるためS(t,X)と書きます。(但しX=(年齢,性別,住所,…))

一方でS(t,X)を明示的に求めるのは難しいため、いくつか間便化したモデルを考えます。

単価(t)が定まれば簡単な長方形の和でLTVを近似することが可能です。しかし、これでも単価(t)の特定は難しいのが現状です。

単価と継続率を一定とすれば簡単な級数でLTVを記述することが可能です。改めて前述したスマートフォンの例を見てみましょう。スマートフォンの例ではLTVは
LTV = 10000*12*2+0.75*10000*12*2+…+0.75^(4)*10000*12*2 = 24000 + 18000 + 13500 + 10125 + 7593.75 = 73218.75円
でした。時間を無限とすると、より一般的にLTV = 単価/(1-継続率)とできます(無限等比級数の和の公式を利用)。余談ですが、1/(1-継続率)は推定寿命と考えることもできます。これは単価と継続率さえわかれば非常に簡単な式でLTVが記述できることを表しています。

従ってLTVを計算するには単価(時間単位の)と継続率が分かれば良いことになります。

単価の推定

ここでは単価推定法を考えます。単価の推定手法は沢山ありますが、ここでは簡単なユーザの実績からの推定方法を紹介します。
単価算定間便法 顧客iの年間単価:=累積購買金額/経過年数

継続率の推定

継続率は統計モデルや機械学習モデルを用いて推定します。モデル自体に難しさはないのですが、学習データの定義に工夫が必要となります。

t期初に存在したユーザのt+1期初での状態により継続か否かを定義します。継続と定義されたユーザのデータカラムには1をそれ以外のユーザには0を設定します。

作成したデータを用いて継続率を推定するモデルを用います。モデルはどれでもよいが、ロジスティック回帰や決定木を用いる事が多いです。

仮にロジスティック回帰を用いた場合は
顧客iの継続率:=1/(1+exp(-z))
z = β + α0*年齢(i) + α1*性別フラグ(i) + α2*購買item数(i)…

(但し 年齢(i)は顧客iの年齢/性別フラグ(i)は顧客iの性別フラグ/以下他の変数も同様とする)
と記述できます。

LTVの計算

推定した単価と継続率を利用してLTVを計算します。
顧客iのLTV = 顧客iの年間単価*(1/(1-顧客iの継続率))

まとめ

LTVは長期的なマーケティング指標となり、それらはCRMだけではなくSoWと組み合わせたブランドスイッチ施策や広告を活用した新規獲得の予算最適化にも有効であることを見てきました。そしてLTVの簡単な算定方法が、単価と継続率の簡単な式で表せることを紹介しました。

一方で今回ご紹介したLTVの算出法は間便な方法であり、その値の取扱いには注意が必要です。より厳密に算出するには年間単価(i,t)及び継続率(i,t)のようにこれら2つの要素も時間tにより変化するようなモデルを考える必要があります。

 

 

投稿者プロフィール

株式会社Crosstab 代表 漆畑充
株式会社Crosstab 代表 漆畑充
当ブログは【アナリティクスやデータの総合的な活用を通じて「未知の知」の獲得に貢献する】株式会社Crosstabが作成しています。

筆者について
2007年より金融機関向けデータ分析業務に従事。与信及びカードローンのマーケテイングに関する数理モデルを作成。その後大手ネット広告会社にてアドテクノロジーに関するデータ解析を行う。またクライアントに対してデータ分析支援及び提言/コンサルティング業務を行う。
統計モデルの作成及び特にビジネスアウトプットを重視した分析が得意領域である。
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